美しの沼

客席より愛を込めて。

プレゼントはいつ開ける:柿喰う客『虚仮威』

明けましておめでとうございます! すでに観劇始めもしているのですが、2017年最初のブログは予告していた大晦日に観劇した柿の新作本公演です。

ちなみにどーでもいいけど、その後のカウコンはついに中継前にキスマイが出てこなくて消化不良がすごい。でも北山くんは可愛い。

 

柿喰う客『虚仮威』

財産! 権力! 地位! 名誉! 望めば何でも手に入る!

演劇界の風雲児・劇団「柿喰う客」が、結成10周年を記念して発表する完全新作本公演!
村を支配する地主の一族が、突如あらわれた未知なる生命体とともに、戦中戦後の動乱を駆け抜ける!?
夢と希望と絶望と悪ノリが支配する暗黒幻想劇、年末年始ぶっ通し上演!!

 

柿さんの本公演が好きで、何年か前から新作本公演は毎回、1-2回は観てます。

主宰である中屋敷氏の脚本(セリフ)と衣装やセットの、一見ゴテゴテドロドロと装飾に不純物が多そうに見えて、中身が健やかで純粋でまっすぐな感じが好きです。女体シェイクスピアも何度か観てるけど、女子だけだとどうも健やかになりきれないというか(私の受け止め方の問題かもしれないけど)ドロリとしてしまうというか、要するに男性陣のパワープレイと時に女優陣以上に繊細な芝居が好きです。本公演の中の女優陣は大好きなんですけどね。(というか永島深谷夫婦が好きです)

 

今回の物語は大正~昭和の時代の東北の貧乏地主に家の12月25日の物語。

平成の現代の視点から語られて、地主一家もフィクションだけど、柿比で言えば、割とリアルよりの設定。だけど、そこで起こるのは12月25日のキリスト教の神様とそこ地にもともといる座敷童や山神さまという、形が確定していない概念たち。

 

面白かったけど、色んな意味で情報量が多すぎたな。

それがどこまで中屋敷さんの狙いなのか。いやまぁ、たぶん狙いなんだろうけど。

 

柿喰う客はこの公演から劇団員が大きく増えています(6人も増えた)。

前回までとは約倍の人数になっているので、単純に登場人物が多い。新メンバーは皆、キャリアから考えると堂々とした演技ではあったんだけど、一方で、元からのメンバーと比べると経験値、実力差が結構あるので、そこはどうしでも目に見えてしまう。たぶん柿のこと知らない人が観ても、今回からの新入りだれでしょうって言われたら言い当てられるくらいには差があった。

 

中盤の地主兄弟に対してのアドリブのシーンと思われる部分(寝言のところ)とかちょっと私の嫌いな種類の「間」ができちゃってて、これはさすがに中屋敷さんが「任せて」「自由に」させてるかもしれないけど、「計算」ではないはず。

 

私は柿の洗練された美しい、衣装、セットがあり、そこによどみないセリフによる高速の攻撃を鋭く浴びせられる休憩なしのノンストップの時間が好きで、本公演を楽しみにしている人間で。

ただでさえ、ここ数回の本公演は客演がいたとしてもレベルの高い演者ばかりで、最高の芝居を、板の上の最小限の人数から繰り出されていたのが単純に配役が増えただけでもそのエネルギーが分散されてしまうのに、そこに素人くさいというか、おぼつかない「間」があるのは、ほんとうに短い1シーンのことではあるけど、私が柿で一番気に入ってる部分がその一瞬で壊されてしまうことになったので、そういうのはせめて本公演とは別の公演にしてほしいかな。

女体シェイクスピアが別軸のシリーズになっているように、より自由度やアドリブも出てくる芝居と完璧にコントロールされた柿節の本公演が別で楽しめるならどちらも観たい。

 

 

ただ、脚本のなかにある柿節は、配役が増えようとも当たり前にそこにあったし、むしろ現代の視点から解説が入ったり、色んな役者の口からそれらが語られることでテーマは明確で、そもそも12月25日というクリスマスの話になっているので、非常に受け止めやすい。

柿は自分たちの戯曲をオープンにして、学生たちにも演じてほしいというスタンスなので、そういう意味でも、役の多さ・テーマのつかみやすさからしても、学生演劇でも挑戦しやすい作りになっている気がするから、そういう部分ももしかしたら新しい試みなのかもしれない。

ストーリーテラー的な役割にもなっていた現代視点のキャラクターを劇団新メンバーでもあるDボの牧田くんが演じていたのは、イケメンだからとか、不倫しそうだとか、そういうことじゃなくって、物語の入り口になる人であり、わざと一人だけ特に現代的な芝居をさせることも含めた狙いもあるのかな。

 

柿喰う客は今、勢いのある劇団の一つであることは間違えがないわけで。

その中で、劇団がさらに大きくなろう、前に進もうと、しているその瞬間に立ち会っている状況。次の本公演でまたどんな舞台を見せてくれるのかは非常に楽しみ。

 

 

余談。

個人的に柿の面白いところとして、主宰が90年代の腐女子みたいなところがあるんだけど、その一つがパンフレットで主宰が自分というキャラクターを3つに分けて対談とかしてる。ちょっと昔の合同誌かよ。自分もそういうのやったことあるけど。

パンフレットはぜひ買ってください。

 

 あとは毎公演、アフタートークがあって、主宰が出てきて語ってくれるんだけど、私が観た回で面白かったのが、現代のシーンの終わり方のところの話。

今回、クリスマスがテーマの芝居だったので、子供がプレゼントをどうするかという解釈で、一見すると、子どもが本当に欲しいものがプレゼントになる、プレゼントの箱に入っているという解釈を、劇団の役者も観客もしてるのに、そこにアフタートークの限られた場面で主宰(脚本家)が子供はプレゼントを開けないかもしれないって話をするのは本当に面白くて、その話聞いちゃうともう一度観たくなるから本当に困る。