美しの沼

客席より愛を込めて。

熟してからが笑の技術:ナイスガイinニューヨーク

観てから日が経ってしまったのと、「コメディ」って演劇的にも難しいけど、面白さをブログで伝えるのもとーーーーーーーーっても難しいので、あんまりレポにはならないかもしれませんが、観たのはこちら。

 

ナイスガイinニューヨーク 

シアタークリエ『ナイスガイ in ニューヨーク』

原作:ニール・サイモン「カム・ブロー・ユア・ホーン」
上演台本・演出:福田雄一
出演:井上芳雄間宮祥太朗吉岡里帆愛原実花石野真子高橋克実

 

一応、あらすじ

舞台はニューヨーク、ある兄弟がいた。ハンサムでプレイボーイ、女性の訪問が絶えない兄の部屋にある日やってきたのは、生真面目な弟。父親の支配から逃げて家出をしてきたのだ。
内気な弟に女性と付き合う楽しさを教えようと一大計画を立てた兄は、彼を立派な紳士に仕立てあげる。
自分の部屋に弟を住まわせ、女性たちを次々と送り込むが、ある日、1本の電話の手違いにより2人の母親がやってきてしまう!
突然の来訪、しかも泣きじゃくる母をようやく家に帰したところで、今度は頑固一徹父親まで登場。
混乱した状況に慌てふためく兄弟をよそに、事態は予想もつかない方向に転がっていき―。

 

忙しいかもしれないけど、絶対に面白いから1回観るぞと決めて観て、ちゃんと面白かったんだからすごい。(語彙力のない感想

福田さんって本当に面白いよね。本人、結構余計なこと言ったりもするけど。あ、これ本当に余計な一言だけど、私、最近、仕事のできる演出家はやっぱり持ってる主張が激しかったりする分、SNSとかで余計なこと言いがちって思ってる。誰とは言わんけど、すっごい思い当たる人多数。

いやでも本当に面白いので。福田さん本人から発せられる言葉は時々「あぁ!?」ってなる時もあるけど、福田さんが作った舞台は好きです。

特に翻訳のコメディ舞台、コメディミュージカルは楽しいと思ってる。英語できないし、元の舞台がどのくらい面白いのかわからないけど、絶対にその国、その土地の笑を再現するなんてめっちゃ難しいはずなのに、キャストや作品は変わっても、間だったり、その時の笑とか取りいてくるし、しかもちゃんと元の海外の戯曲の空気を残すからかな、オシャレな舞台になってるんだよ。本人全くオシャレじゃないこと言うのに!

 

今回もまずセットや衣装が素敵で。すべてのシーンが主役の兄(芳雄)くんの部屋で展開するので、場面転換はないんだけど、オシャレなNY男の部屋なんだよ。バーカウンターがあるし。色もクラシカルじゃなくって粋。だからお母さん(石野さん)は片付いてないみたいに言ったりするのよね。

セットの後ろにバンドがいるんだけど、曲が始まると大きな窓のカテーンごしにバンドが見えるようになるのがすごくいい。ほとんどシルエットなんだけど、生バンドなんだよって分かるし、なんとなくオシャレなライブハウスの雰囲気が出る。

もちろんセット作ったり、衣装スタイリングするのは演出家じゃないとはいえ、制作の一番上のあたりに演出家&脚本家はいるとは思うので、福田舞台は割といつもセットとかも好きです。

 

内容はドタバタホームコメディです。アメリカのコメディドラマを最新のネタを入れた吹き替えで見てますって気分になる。

トライベッカがあったとは言え、芳雄くんと福田さんの相性が良いとは思ってたけど、思っていた以上によくて。浦井くんとか堂本剛くんみたいな素ボケとは違う、恐ろしいスピード感のツッコミとセリフの応酬。ミュージカルではお目にかかれないけど、ファンは皆知ってる井上芳雄の持ってる才能が発揮されまくった芝居です。

まぁ、よくしゃべる。そして福田喜劇の特徴である「どこまで脚本でどこまでアドリブかがわからない」。そういうポイントがすごく多かった。それだけ脚本もよくできてるし、出演している役者さんもよく稽古されてるんだろうなぁと。

あと、芳雄くんはスーツが抜群に似合うのでかっこいいです。さらに芝居と言っても、歌はフランク・シナトラの曲を4曲、生バンドで歌ってくれます。

 

キャストの中ではやっぱり注目は、弟役の間宮くん。私にとっては銀英伝のラインハルトが印象深いです。人柄もよく、いい芝居をするし、美形で背も高いけど、若干顔が大きいと言う完璧に舞台向きなイケメンだわぁという認識の彼です。

1曲、兄の芳雄くんと二人で歌う曲があるのだけど、アドリブなんだかセリフなんだか芝居の中で兄が歌い出したら「兄さん、めっちゃ歌がうまい」とか「歌やダンスは全くないストレートプレイと言われていたのに」とか言い出すので、若干、兄さんの歌に集中できないくらい笑ってしまうんだけど、間宮くん、声がいいのでなかなか歌も良かったです。そりゃ芳雄くんもアドリブなんだかセリフなんだか本音だか「それ以上上手くなるな」って言いますw

他のキャストもみなさん、お上手な方ばかり…の中で、実はヒロインの吉岡里帆さんだけ、ちょっとぎこちなさもあったんだけど、彼女初舞台だそうで。体当たりでフレッシュに演じてくれていて、この芝居の中のヒロインのキャラにははまっていたと思います。

 

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コメディ(喜劇)、アドリブは難しい

これはたまたま、ナイスガイを観たあとに、友人と話したことなんですけど、改めてコメディって絶対に難しいし、劇場にあつまる都市部の女性が多いとは言え、一応「住んでいるところも年齢も性別もバラバラな人たち」が等しく楽しいと思える笑いって、相当に難易度が高いですよね。

泣かせるのは、それなりの役者(さすがに大根すぎるとダメ)に「絶対に泣ける脚本」をやらせればある程度の確率で泣けると思うんですよ。最近観た舞台だと、私は最高に切なくさせられて最高に好きでしたけど雪組の「星逢一夜」とかツキステの「夢見草」とか。あんなん絶対に泣きます。でも、笑いって本当に鍛錬によって身につけた技だよなぁと。

 

私が観た舞台ではないので作品名は出しませんが、ちょうど友人がナイスガイと同じ時期に観た舞台がまぁ、つまらなかったと言うんです。

で、実は原作は好みの差はあれど、実は海外の喜劇脚本で、出演者はナイスガイももう一つの舞台も友人の特定の贔屓/担当ではないけれど、どちらも自主的にチケットを取るくらいには好意的に観てるキャスト陣。ただし、後者の舞台のメインの方が若手。これは要するに演出と役者の技量の差なわけですね。

 

それでまぁ、いろいろと話してみて「初見なのにここから確実にアドリブ」というのが板からも客席からも分かるのが、一つ問題だよねって話になりました。

もちろん、わざとアドリブ(日替わり)コーナーみたいな形にしちゃうステージやイベントで楽しいものはあるし、その方がメリハリが付いて観やすい舞台もあります(2.5だとキャラでふざけすぎるのは難しいからそのコーナーだけ中の人がにじみ出てもいいみたいな暗黙の了解はあると思う)。

だけど、明らかに芝居の質が下がったり、急に内輪ネタに走っていたり、あるいは準備不足で予定されていないためか空白の時間が生まれたりすると完全に芝居が壊れる。

 内輪ネタ系は本当に客席がほぼ全員内輪(ファン)だった場合はそれで成立するので、何もしないよりはいいんですよね。ジャニ舞台とか最たる例です。

ジャニーズ舞台と言われるものは出演者は一部JAEさんやGロケさん、ゲスト女優さんを除いて基本ジャニーズなので、要するに主役どころ以外はJrなので、彼らに対する経験と時間を埋めるために、Jrによるアドリブコーナーは割と色んな舞台にあるし、しかもそこで確実に受けるのは主演の先輩だったり、国民的な人気になってるようなでびゅー組の先輩のネタとかです。。

 

そもそもお笑い芸人さんの漫才とかコントもその日一回限りのネタなんてものはむしろ少なくて、お笑いの大会だったり劇場で披露しているのは彼らの中でも、練りに練られたネタで、かつ何度も笑いをとったものです。落語もそう。

 

改めて、笑いって真剣にじっくり鍛錬し、磨いていくものなのだろうなぁ。

 

芳雄くんのコメディセンスは持って生まれた部分もあるとは言え、20代のうちに今回のような芝居をやっても、ここまで面白くはなっていなかったはず。

ここまで経験を積んで、芝居もトークも磨いて、劇中劇としてシナトラのナンバーを4曲くらい歌うことは彼にとっては難しいことではないだけの歌唱力と自信、場数も踏んだ上で、今回のナイスガイinニューヨークの面白さがあるんだろうなぁ。